世の中には2種類のヒトが居る。しかし、今はどうでもいい。
この世の中無粋な輩が居すぎて、呼吸をするのも億劫であるな。聞いたこと無い言葉、見たことの無い色をした髪、心の身長以上に背伸びした格好をした者モノ。工業が発達して、これ以上にない位奴らは幸せだろうな。
だが、私は全然幸せにはなれない。何故なら私には全く必要の無い物だからな。車、工業用品、服、こんくりーとに囲まれた家…上げだせばキリが無い。
さっきから何やら文句ばかり連ねて来たが必要ない物は無い。
何故なら私は猫だ。
猫が猫の目で、人の手によって作られた世界を見てはいかんかね?
何やらここも住み難い世界になってきたのだな
猫の目 人の手
人により育てられ、人により壊される
なんと億劫なものであろうか。壊されるのであれば人に従わねば良い。災害、疫、天誅、人など所詮弱き者よ。時間に縛られ、約束で雁字搦めになってしまいおる。約束を破ればそれで関係は塵にも等しい物になる。あぁ、哀れな生き物よ。人間になる位ならば猫のままで良い。時代の移ろいを見ていると、とても強く感じるのだよ。
ワタシは人にあまり接触してはいけない。
なんせ、幾つもの時代を行脚してきたからなのだがね。人はワタシを猫又と呼ぶ。妖怪、物の怪、化け物なんてのもあったかね。とにかくそういう異質中の異質な存在であるが故に人に接触してはいけない。それに、馴れ合いを求めるような歳ではないからさ。
土地、場所、時間を移ろって行く中で、1人とても奇怪な人間と少しの間共に移ろった事があった。今日は少し気分が良い。では、老いた猫又の独り言でも聞いてくれ。
あれは初夏を迎える時より少し前のこと。
まだ木には少し花があり、春から夏へ移ろい行く途中であった時だ。
ある朝、いつものお気に入りの家の軒下で涼みながら寝ていれば、何やらその家からは聞こえた事が無い騒々しく耳障りな音が縁側を駆け抜けて行った。
眠りを妨げられては誰であろうと少々苛々はするであろう。どれ、顔でも少し拝んでやろうと思ってな。行ったのだよ、縁側に。その家は縁側のすぐ横に客間がある。そこにどうやら住処の住人や主が一同に会しているようである。いつもは2人なのに、今日は3人になっている。主の菊之介に、妻のふき、それにあの茶色のボンは見たことがないね。少し着崩してある黒に水色の線が入ったぶれざーを着、髪は短髪の茶色、眼は黒、少し猫背気味、顔は…おや。少しふきに似ているように見えるな。親族のものか?
話が聞こえん。ここまで来れば仕方ない。中に入るか。
障子を顔で少し押し、少しあった隙間を広げ中に入れば、あのボンが菊之介とふきに頭を深く下げ、いわゆる『土下座』の体勢を取っていたのだ。
「じいちゃん、頼む夏休み終わりまでで良い。俺をここに置いて欲しい、頼む!」
「それは構わんのだが、問題は…ほれ」
「椿ですね。」
「母さんは俺がなんとかするからさ!お願い!もうじいちゃんとばあちゃんしかいないんだ!」
読めた。そう言う訳か。
何やらわけありのようであるな。私は少し退散でもするか。
「むぅ…椿をなんとか説得させれればわしらは構わんぞ」
「部屋がにぎやかになりますしね」
「やったー!」
障子を通り抜けたあと、耳を劈かん勢いの大声が響いた。
若葉が芽吹きだす5月のことであった。
蝉がひっきりなしに鳴き、照らしつける太陽が否応なしに体力と水分を奪っていく。
そう来たんだ!待ちに待った夏休み!
高2である俺は別格勉強を迫られる訳ではない。ただ、親が煩い。口を開けば「ちゃんとしなさい」とか「自覚を持ちなさい」とか、俺んちは神社とかそんな凄いものをやってるわけがない、ただの中流家系だ。
この楽しい夏休みを友達と遊ぶとかでも良かったのだが、やはりここは親から出来るだけ離れてゆっくりしたい。そう判断した俺は5月頃に祖父母の家に行ったんだ。
この時に友達と遊ぶ。を選んでおくべきだったと、今更ながら後悔だ。
「何を呆けておる、この馬鹿面かましおってこの魯鈍な奴め」
「魯鈍ってなんだよ、この化け猫!」
「愚かで、頭の鈍い、簡単に言ってやれば のろま だな。解ったかボン。」
「うるせー!ちょっと昔の自分に後悔してただけだよ!」
意気揚々と祖父母の家に向かった。片道2時間。バスは一日に10本出てるか出てないか。海に面し、ずっと奥に行けば山もある。簡単に言えば田舎だ。何もないけど、大切なものがゴロゴロ転がっている。俺にとってはそんな所だ。
何だかんだしていれば、祖父母の家の(村の)最寄り駅『畦浜』に着いた。
バスから降りれば夏独特の熱気と海の匂いと鳥と波と少しの子供の声。都会では考えられないくらい静かで居心地が良い。バスのドアが閉まり、次の駅へと足を進めた。
辺りを一周り見渡した後、ふと目に付いた赤色。舗装された道路に不釣り合いな赤色のソレ。着替えが入っているボストンバッグを下に置き、手に取ってみれば
「く、首輪?」
見覚えのある大きさより少し小さい。真ん中に少し錆びた鈴がついている。おそらく猫用か何か小さい動物につけるものだろう。
元の位置に置こうと思ったけど何故か手から離れない。振り回しても、ひっぱってみてもはなれない。
「どうなってんだよ!なんで取れねーんだよ!」
『………tイ』
「…えっ?」
『…ニ……リタイ』
「な、なんだよ!」
『…オウチニ…エリタイ』
「お家に帰りたい?」
『メイ…カイ・・サマ』
「めいかいさま?もーなんなんだよ!どうしろってん……っ!」
なにやら変な声が聞こえて来たと思えば突然の激しい頭痛。もうこれ心霊現象でしょ?
頭痛が酷くなり、目を瞑った。するといくつかの場所がまるでスライドショーを見ているかのように流れ出した。
祠、赤い首輪、大きな手、大きな桜の木
映像が流れ終われば頭痛も嘘のようになくなり、首輪も手から離れた。
落ちた首輪を拾い上げ見れば、映像で見た首輪にそっくりだった。
「……冗談。」
そう信じ込み、首輪をジーンズの後ろのポケットにしまいこんだ。
何故か置いて行ってはいけないような気がしたのだ。
この続きはgdgdになるだろうな…